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「ムーミンバレーパークのAto Z」【U】Uimahuone(水浴び小屋)

ムーミンバレーパークのちょっとディープな情報を、AからZまでのキーワードにして、アルファベット順にご紹介していく「ムーミンバレーパークのA to Z」。

【U】「Uimahuone(ウイマフオネ)」(水浴び小屋)です。

エントランスの「はじまりの入り江」エリアを抜けると、右手側の湖面に「水浴び小屋」が見えてきます。これは、ムーミンバレーパークのはじまりと、ムーミンの物語の世界がいよいよはじまるんだ!というワクワク感を象徴する最初の建物です。

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「水浴び小屋」は、海が好きなムーミンたちが、ここから海へ飛び込んだり、日光浴をしたり、ひと休みできるように、ムーミンパパが建てたものです。

物語の中でも、四季折々、天気、時間帯に関わらず、いろんなシチュエーションで登場していますね。

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水浴び小屋はムーミンの世界だけのもの?

フィンランド語でウイマフオネ=「水浴び小屋」と翻訳されたこの言葉は、日本で生活している私たちにはあまり馴染みがなく、ムーミンのお話で初めて聞くという方もいるのではないでしょうか。
これは、トーベが生み出したムーミンの世界で使用される独特の言葉、というわけではなく、北欧では海や湖などの水辺にときどき見かける建物のことです。
水浴び小屋は、19世紀半ばくらいから上流階級の別荘地に設置されるようになりました。その頃はもっと大きな建物で、室内に入ると床がなく、海とつながるようになっており、周りが板壁で囲われていました。それは子どもや泳ぎが不得手な大人にとって、屋外の何もない場所よりは安全な場所として、また、女性の隠れ家的な浴場としての役割を果たしていたようです。後に、大衆の一般の人々の中でもアウトドアレジャーの人気が高まり、海や湖で泳ぐ前に着替えるための更衣場所として、徐々に縮小されたサイズになったそうです。

左:1910-1920年頃に撮影されたフィンランドの水浴び小屋写真(Nuutti Kanerva Collectionより) 右:1873-1917年の間に描かれた水浴び小屋の絵(Finnish National Gallery より)

ムーミンのお話に出てくる水浴び小屋は、後の更衣室に近い小さなサイズのタイプの建物。夏の期間を島や海沿いの群島地域で過ごし、幼少の頃から海に慣れ親しんで育ったトーベやヤンソン一家にとって、水浴び小屋というのは、幸せな夏の日の記憶のひとつであるのかもしれません。

1940-50年頃のペッリンゲでの家族ピクニック。左から、父ビクトル、弟ラルス、母シグネ、トーベ


ムーミン一族らしい形の「水浴び小屋」

北欧の人々の暮らしの中で昔から使われてきた「水浴び小屋」は、ムーミンの世界では才能あるムーミンパパによって手がけられ、細長い板張りのとんがり屋根をしていて、とても「ムーミン一族らしい形」をしています。

ムーミン谷の象徴ともいえる、ムーミンパパ自ら設計した青い壁に赤い屋根が特徴のムーミンやしきは、「タイル張りストーブそっくり」(『小さなトロールと大きな洪水』)と表現された細長い建物。後に、ムーミンパパが移住先と決めた灯台(『ムーミンパパ海へいく』)も、細長い尖塔系の建物。
それは、ムーミンのご先祖さまたちが昔むかし、細長いタイルストーブの後ろで暮らしていたという遺伝子が引き継がれ、本能的にその形を求めたのかもしれません。
だから、ムーミントロールが冬に出会ったご先祖さまも、水浴び小屋の中に隠れていましたし、ムーミントロールが水浴び小屋のクローゼットを開けてしまってそこから逃げたあとも、ムーミンやしきのタイルストーブを気に入り、寝床にしていたこともありました。(『ムーミン谷の冬』

そして、この水浴び小屋は、冬の間はトゥーティッキのものになります。
ムーミントロールが「うちのパパの水浴び小屋だよ」と言っても、トゥーティッキからは、「あんたのいうとおりかもしれないけど、まちがっているかもよ。そりゃ、夏の間は、パパの小屋だったでしょうよ。でも、冬はこのトゥーティッキのものですからね」と言われてしまいます。でも、春になると、ちゃんと赤と緑の窓ガラスをぜんぶきれいにみがいて、夏いちばん乗りのハエがたのしめるように、水浴び小屋のそうじをして、ムーミン一家に返しています。(『ムーミン谷の冬』

パークの水浴び小屋も、季節によって、ムーミン一家のものだったり、トゥーティッキのものになったりと様子が変わります。

冬は、正面の扉には“トゥーティッキ”と名前の書かれた木の札や、赤と白のボーダーシャツ、ナイフの腰下げ、帽子、釣り道具や手回しオルガンなど、トゥーティッキの佇まいが感じられます。夏は、ムーミンたちの水遊びの場所に。

小屋の中には物語にも出てくる三本脚の鉄のストーブ、ムーミンパパが海で拾ったという丸いテーブルもあります。

誰かの食べかけの果物や、額に入ったムーミン一家の水浴び小屋で過ごしている様子の写真などからも、ムーミン一家の痕跡が感じていただけるのではないでしょうか。


水浴び小屋は何色?

そうそう、そういえば、悩んだのは水浴び小屋の壁や屋根の色をどのようにするかです。
実際に既にあった「水浴び小屋」らしきもの―フィンランドのムーミンワールドや、公園などの建物、それからムーミングッズや小説の表紙など、ぜんぶ、壁も屋根の色もバラバラ。

そこでムーミンバレーパークは、小説の描写に倣いました。
“黄色い板壁に開いたふし穴や、緑と赤のガラスがはめられた窓に、せまいベンチ。”(「ムーミン谷の冬」

でも、ムーミン谷はひとりひとりの心の中にある、ということを思えば、何色が正解、なんていうのは、あってないようなものかもしれませんね。

水浴び小屋の脇には、ムーミンと水浴び小屋との関係について映像で知れる「ストーリーの扉(tarinaluukku)」もありますよ。ぜひお立ち寄りくださいね。


ムーミンバレーパークのAtoZ に関しては、こちら(↓)をご覧ください

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株式会社ムーミン物語
川崎 亜利沙
(text by Arisa Kawasaki, Moomin Monogatari ltd.)

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