見出し画像

ノルウェー映画『SONG OF EARTH/ソング・オブ・アース』(メッツァ北欧シネマ倶楽部 vol.6)

2024年9月20日から公開中のノルウェー映画『SONG OF EARTH/ソング・オブ・アース』は、地球上でも有数の壮大なフィヨルドがあるノルウェー西部の山岳地帯「オルデダーレン」の美しい渓谷に生きる老夫婦の姿を、娘であるマルグレート・オリン監督のカメラが映し出すドキュメンタリー映画。

劇中には、お父さん・ヨルゲンの散歩をカメラが追うシーンが数多く登場します。
なんとこのお父さんは当時84歳ですが、雨でも雪でも氷の上でもどんな季節でも、ノルディックウォーキングのスティック両手に、自然の中に入ります。(何なら、ときどきボートやスケートも活用します)
「私は84歳になるらしいが、それが何だ?」とは本人の弁。
年齢を気にせず、自然の中を散歩することがなによりの健康長寿の秘訣であるということを背中で語っているこのお父さんですが、自身のこれまでの人生、生まれた場所・オルデダーレンの歴史―それは自然の美しさだけでなく脅威も-、それらを通して、人生をどのように生きていくかという人生哲学が作品には詰まっていました。

これから、映画に込められたメッセージ、ノルウェーにしかないユニークな自然に関する言葉、おすすめのノルウェーの作品など、映画がさらに味わい深いものになるヒントをご紹介します。




人生を良くするためにできることは? 答えはぜんぶ、映画の中に

お父さんとの散歩は、約1年かけて撮影され、四季折々のさまざまなシーンが映し出されます。
特に、水はさまざま形を変えて登場していました。氷・雪・滝・川・雨、そして水中も。

自然は雄弁で、いろいろなことを教えてくれます。
お父さんも、「自然が教えてくれる物語に、私は驚くばかりだ」と語りますが、その大自然に身を置くお父さんからの言葉も、さまざまな示唆に富んでいます。

・自分の娘に‟パパ、おとぎ話を聞かせて”と言われたら、何て答える?
・家族の誰かが亡くなってしまって悲しみが襲ってきた場合の、生きやすくなる方法は?
・人生そのものの価値を、一気に高くすることができる方法は?
・自分自身が幸せなら、まわりの人たちも幸せを感じることができる、ではその上で何よりも大切なことは?

答えは、全部映画の中にありました。


映画の原題「父なる国」について

今回、ぜひピックアップしてご紹介したいと思ったのが、本作品のノルウェー語の原題「fedrelandet」(英訳では「The fatherland」)。つまり、父なる国、祖国という意味になります。

もちろん監督の祖国ノルウェーの自然を写したドキュメンタリー作品でもありますが、その場所の土地・自然の舞台が、このドキュメンタリー映画のある意味主人公でもある「お父さんの王国」、という意味も含んでいるのではないかと個人的に感じました。

少し話が反れますが、自分の国は、母国「motherland」という言い方もしますよね。
これは、英語圏で一般的に使用される言葉で、特にイギリス英語でよく使われると言われています。
一方、「fatherland」の言い方は、ドイツ語やロシア語、そして北欧でもノルウェーだけでなくスウェーデン・フィンランド・エストニアなどもそれぞれの国の言葉で使用されています。
奇しくも、お父さんにフォーカスした映画でもあり、自分の国ノルウェーの言葉の祖国が「fatherland」の言い方だったというのは、必然のタイトルだったのかもしれませんね。


知ると映画をさらに楽しめる、映画を象徴する北欧らしいシーンやユニークなノルウェー語

映画には、雄大な自然がこれでもかというくらい、登場します。
それは、「フィヨルド」「サンドヴィーカ」と呼ばれる雪だまりなど、ノルウェーを象徴する景観だけでなく、非常に北欧らしいオーロラ、白夜の中でのかがり火、ベリー摘み、トナカイよりも大きいヘラジカの群れ、そして北の地域だからこそ自然からの警鐘を目の当たりにすることになる地球温暖化による氷河の変化も映しだされます。

さらに、その中でも、ノルウェーと本作品をさらに知るためのヒントとして今回ご紹介したいのが、ノルウェー語にしかない自然に関する言葉です。

【自然の中で生きる】friluftsliv(フリルフスリヴィ)
これは、ノルウェー語で「自然の中に身を置き、自然と共存し、ありのままに楽しむ」 という意味。まさにお父さんはこの生き方を実践していますが、これは、お父さんに限ったことではなく、ノルウェーの多くの人々が意識せずに取り入れているものというのが伝わるのではないでしょうか。

【悪い天気なんてない、悪いのは服装】Det finnes ikke dårlig vær, bare dårlige klær.
これは有名なノルウェーのことわざで、直訳すると「悪い天気は存在しない、あるのは悪い服装だけ」という意味です。お父さんも季節ごとにさまざまなノルウェーのアウトドアウェアを着こなしている様子に、お父さんの服装の変化でも季節を感じていたのですが、雨でも嵐でも雪でも、適切な服装をしていれば、悪い天気なんてものは存在しない、ということですね。これも天気が変わりやすい北欧ならではの言葉だと思います。


さらにノルウェーを知るためのジョークやおすすめの本・映画

本作品の試写にお邪魔した際、ノルウェー夢ネットの青木順子さんが、上映後にさまざまな解説をされていました。

自然に関するジョークで、「ノルウェー人は、町中にはゴミを捨てるけど、自然の中では捨てない。」(自然を大切にしていることがわかりますね!)

劇中にも登場した両親の自宅や配給会社の方が監督とオンラインミーティングをした際、インテリアが素敵だった!というところから、「ノルウェー人は聖書よりイケアカタログを愛読する」というジョークもあるとか。

また、劇中では、家族の大切な思い出となる大きなトウヒの木のクリスマスツリーの印象的なシーンがあるのですが、ノルウェーでクリスマスツリーは、都会の人は購入するけれど、田舎の人は実際に森に取りに行きます。
これは他の北欧でも同じなのですが、ロンドンで有名なクリスマスツリーのひとつ「トラファルガー広場」のツリーを毎年ノルウェーが送っているということが誇りだそうですよ。

さらにノルウェーを知ることができる本や映画もご紹介されていました!

≪小説≫『朝と夕』(ヨン・フォッセ著、伊達朱美訳、国書刊行会)

≪語学学習≫『テーマで学ぶノルウェー語』(青木順子著、白水社)

≪映画≫『ロスバンド』(クリスティアン・ロー監督)

≪映画≫『わたしは最悪』(ヨアキム・トリアー監督)

映画の世界やノルウェーを日本で体験

ここまで読んで、『SONG OF EARTH/ソング・オブ・アース』やノルウェーについて、興味を持っていただけたら、実際に追体験はいかがでしょうか。
森と湖に囲まれた、自然豊かなここメッツァビレッジでも、映画に登場する「ノルウェー」「自然」をキーワードに、食文化やボート体験などを通して、映画とメッツァがゆるやかにつながる“映画&メッツァで旅する避暑キャンペーン”を2024年10月27日まで開催中です。

映画の映像の美しさや音のこだわりもぜひご注目ください!
音は氷河から降り注ぐ滝、岩に打ち付ける波の音、雪崩の音のような大胆な音から、虫の羽音まで幅広く。
娘であるオリン監督とお父さんの会話で、監督が「氷河の音からオーケストラが聴こえる」と言ったら、「君も聴こえるのか」とお父さんも言ったとか。そんな音に対して繊細な感性を持つ監督が表現するさまざまな音のオーケストラにも耳を傾けてみてください。

最後に、私が印象的だったことばをご紹介します。
山合いで見つけた野生の花に、お父さんはこんなことを言います。
「生き延びようと闘っている花は 特に美しい色をしている」
これは人間にも通じることなのだと思います。
なにかに真剣に打ち込んでいたり、努力している人は、やっぱり、美しいものですから。

そしてこれは、試写でご紹介していた監督の言葉。
この作品は、春ではじまり、春で終わる映画の構成になっています。つまり、厳しい冬で終わらないんです。すべてのものがはじまる春で終わりにしたのは、希望を持ち帰ってほしいから、だそうです。

他の北欧映画記事についてはこちら

文:川﨑亜利沙

いいなと思ったら応援しよう!