「ムーミンバレーパークのAto Z」【R】Ruokala(ムーミン谷の食堂)
ムーミンバレーパークのちょっとディープな情報を、AからZまでのキーワードにして、アルファベット順にご紹介していく「ムーミンバレーパークのA to Z」。
【R】はパーク内にある「ムーミン谷の食堂」(Moominlaakso Ruokala)の「食堂」を意味するフィンランド語のRuokala(ルオカラ)。
フィンランド語で、「レストラン」はRavintola(ラヴィントラ)という言葉がありますが(これもRで始まりますね!)、ムーミンの物語に合う世界観は、格式ばった「レストラン」よりも、和気あいあいと親しみやすい「食堂」がしっくりくるので、こちらの単語を選んでいます。
また、日本人にとっても、ラヴィントラ、より、ルオカラ、のほうが、言いやすいし、覚えてもらいやすいのかなと考えました。
ちなみに、北欧フィンランドを舞台にした映画「かもめ食堂」は、フィンランド語で、Ruokala Lokki。同じく、ルオカラという言葉が使われていますね。
凝ったものではないけれど、季節の恵みを活かした素朴な食べものと、みんなで楽しむ心があれば、ムーミン谷の仲間たちにとっては、なによりのごちそうとパーティーのはじまりです。
ムーミンたちの食事のシーンは、パーティーがつきもので、ムーミンのお話では、季節や時間帯に関わらず、いろいろなパーティーが登場しますが、特に挿絵のインパクトが強く印象に残るのは、夜のパーティーではないでしょうか。
夜を舞台にしたパーティは、絵本『さびしがりやのクニット』にも登場します。
この挿絵のアートは、2012年にフィンランドの首都ヘルシンキがワールドデザインキャピタル(世界デザイン都市)に認定された記念のARABIAのマグカップにも「Hurray!」(万歳、乾杯などの意味)として、使われていました。
夜の森と光の中で、騒ぎ明かすムーミン谷の仲間たちは、どこか淋しげで、どこか奇妙でもあります。
イルミネーションイベントに毎年多くの人が集まるように、暗闇の中に光る電飾は、見る人の心を高揚させます。
夜の装飾に包まれた空間の中に、遊戯施設があり、楽器の演奏や音楽とともに踊り明かすことは、ムーミンの世界でも、人の世界でも、普遍的なエンターテインメントなのかもしれません。
舞台は、夜の森で開かれた、ムーミン谷はじまって以来の大パーティー
パーティーの中でも、「これほど盛大なパーティーは、ムーミン谷で、本当に初めてだったのです」と言われるくらいの、ムーミン谷はじまって以来の大パーティーは、小説『たのしいムーミン一家』で、行方不明だったムーミンママのハンドバックが見つかったお祝いです。ムーミン屋敷の庭で催されたそのパーティーは、「八月の大パーティー」とも言われますが、この日は、ムーミン谷の住人だけでなく、森や丘や海辺に住む生きものたちもやってきます。たくさんの打ち上げ花火があがり、なにもかも食べつくし、飲みつくして、思うぞんぶんおしゃべりをして、足がもつれるほどダンスをして、パーティーは、夜明け前まで続きました。
「ムーミン谷の食堂」では、そんなパーティーの楽しさを、訪れるゲストのみなさんにも食事を楽しみながら体験いただけるよう、挿絵に登場するモチーフを散りばめ、まるでムーミン一家の大パーティーに招かれたように感じていただける空間を目指しました。
店内に入ると、夜の森を舞台に、電飾の明かりと、パーティーを楽しむ生きものたちのシルエットが浮かび上がった、幻想的な空間が広がります。
壁には、月の輝く夜にたくさんの打ち上げ花火が上がった、八月の大パーティー会場のアートを象徴的にデザインしています。
テーブルは、ムーミンパパがこしらえた手作りのパンチ酒のたるをイメージしたもの、物語さながらに、つややかなくだものの山、木の実や葉っぱのブーケや、ジュースの瓶などがちらばったようなデコレーションでゲストのみなさんをお出迎えします。
建築の制約を演出に変える
‐北欧からインスピレーションをうけたエッセンスが点在‐
室内型の建物は、どうしても日の入り方が限定されてしまい、暗く見えてしまうこともあるので、それを逆手に取って、夜の演出にすることもできるという着想を得たのは、スウェーデンのテーマパークでした。
それから、建築構造でどうしても出てきてしまう無機質な大きな柱を、空間を壊さないようにどのように演出しようかと、悩んだときに思い出したのは、柱ごと木のようなモチーフで覆って、森の木として素敵に生まれ変わらせていたデンマーク発祥のピザ屋で見たものでした。
制約をプラスに形に変えていることが印象的なデザインを写真に残していくと、そのデザインの記憶の引き出しの多くは北欧などを個人的に旅したときのものが多いので、まさに北欧諸国がデザイン大国と言われるゆえんでもあるのかなと気付くことがあります。
ムーミンバレーパーク内というのは、基本的には、ムーミンの物語と作者の生まれ故郷である北欧のデザインをかけあわせたつくりにしていますので、パークの世界観に魅力を感じていただき、北欧デザインに関心を持たれた方は、本当はぜひ北欧に足を運ばれて、いろいろな建物や内装インテリアやサイン、色使いを見たり、現地の飲食店を訪れて、その土地の美味しいものを食べてそこで使われている食器やカトラリも見たり、町や人の空気感などを実際に感じていただけるとよいのですが、とても残念ながら、昨今はまだ海外旅行に気軽に行ける状況ではないので、パークを含む、メッツァに足を運んでいただくことで、北欧やムーミンの物語の世界を旅したような気分をほんの少しでも感じていただけたらうれしく思います。
Tips 入口の新聞にもご注目!
「ムーミン谷の食堂」の入口にある新聞は、フィンランド語で書かれた「ムーミン谷新聞」。
バッグが見つかったニュースが大々的に取り上げられていますよ!
ムーミンたちの世界のパーティーや登場する食べもののことに興味を持っていただいたら、食事を通して、うきうきする気持ち、和やかな雰囲気、居心地の良い空間に身を置くこと=コンヴィヴィアル、というテーマで、展示施設コケムスでは、企画展「ムーミンの食卓とコンヴィヴィアル展 ‐食べること、共に生きること‐」も開催中ですので、同じコケムスにある建物内の「ムーミン谷の食堂」と合わせて、巡ってみるのもおすすめです。
ムーミンバレーパークのAtoZ に関しては、こちら(↓)をご覧ください
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株式会社ムーミン物語
川崎 亜利沙
(text by Arisa Kawasaki, Moomin Monogatari ltd.)