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「ムーミンバレーパークのAto Z」【G】Guest ゲスト

ムーミン公式サイトにて、ムーミンバレーパークのちょっとディープな情報を、AからZまでのキーワードにして、アルファベット順にご紹介していく「ムーミンバレーパークのA to Z」。

ここ、ムーミンバレーパークでは、訪れたお客さまのことを、「ゲスト」と呼びます。
対して、働く従業員は「スタッフ」です。
この名前になるまでに、もちろん紆余曲折はありました。
今回は、私たちのパークにとって大切なみなさん=「ゲスト」(Guest)【G】です。

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例えば、他の有名なテーマパークでは、
従業員は「キャスト」とか「クルー」などとも呼ばれているところもあります。
それぞれ、かっこいいですよね。

私たちはまず、ここのパークはどんな場所で、お客さまと従業員は、どういう関係を目指したいのか、という話し合いから始まりました。
もちろん、ムーミンの物語をテーマにした場所ではあるのですが、〇〇のような場所で、どういうときに来てほしい場所でありたいのか、ということも。
その結果、ムーミンの物語を象徴する「ムーミン屋敷」は鍵がかかっておらず誰でも受け入れる場所であるように「いつでも戻って来ることのできる場所」でありたいし、「うれしい時やかなしい時、さみしい時もムーミン谷に訪れればムーミン谷の仲間たちがいつでも迎えてくれる」ようなパークでありたいと考えました。

テーマパークって、にぎやかで、みんなで来る楽しい場所のようなイメージがあるかもしれませんが、正直それだけだと、ちょっとムーミンのテーマパークらしくないんです。
例えばムーミンたちだってひとりでいたい時もありますし、
スナフキンは静かなところを好みますし、
「しずかなのがすきなヘムレンさん」なんてのもいるくらいですので。

わいわいと過ごしていただくことも大歓迎ですが、
かなしい時、さみしい時にこそ一人でふらっと来て、湖を眺めながらぼんやりするもよし、ムーミンたちのショーを見るでもよし、めいめい、思い思いに過ごして、それでいて、自分がそこに受け入れられていることが感じられる場所、そして、明日からまたがんばろうかな、なんてことを最後は前向きに思って
パークをあとにしてくれるような場所が、今の現代には必要なのではないか―、休みの日に気分転換をしても、私たちの人生や生活は、これからもずっと続いていきますので、一時的に大きな刺激を与えるよりも、細く長く、関係性が続いていけるほうが、お互いにずっと心地良く、結果的にそれぞれのゲストの人生が豊かなものになるのではないかなと考えました。

そんな関係性がわかる言葉を、
もちろんムーミンの物語が生まれたフィンランド語でもそれぞれ考えて、
・Naapuri(隣人, neighbour ) ナープリ
ゲストは、「ムーミンバレーパークの周りに住む隣人」という設定。
ムーミンバレーパークに対して、親しみのある場所、
気軽に訪れることができる場所と思っていただくため。

・Asukas(住人, resident ) アスカス
スタッフは、「ムーミンバレーパークの住人」という設定で、ゲストを迎え入れる。(※ムーミンバレー(ムーミン谷)、ではなく、「ムーミンバレーパーク」。)

という案もありましたが、日本人に馴染みのないフィンランド語で呼んでも、意味がわからないので、これはあくまでコンセプト的なものとして、シンプルに、誰にでも伝わる、「ゲスト」と「スタッフ」に落ち着きました。
この呼び方は、フィンランドのムーミンキャラクターズにも相談して、
これがベストだよね、ということにもなりました。


押しつけがましくない気配り。旅人の自由を尊重する。

これから、ムーミンの物語にもある個人の尊重や自立に関連する言葉を2つご紹介します。

ある日、ムーミンパパが、家族の誰にも説明なしにしばらくいなくなったときに、ムーミンママがそのうちに帰ってくる、いつだってそうだったんだから、と言ったあとの文です。
「そんなわけで、だれも気をもんだりしなかったのですが、それはたいへんいいことでした。
みんなおたがいに、人のことは心配しないことにしているのです。
こうすれば、だれだって気がとがめないし、ありったけの自由がえられますからね。」
『ムーミン谷の仲間たち』

心配しない、というのが、親切にしない、関心を持たず冷たい、ということではなく、相手を信頼しているからこそ、心配しない。それはその人の自由を尊重する、という相手のことを思った最大限の思いやりであるということだと思います。

それから、これはパークの接客方針とは少し離れた内容になりますが、
小説『ムーミン谷の冬』をテーマにした今冬のムーミンバレーパークの
ナイトアトラクション「アドベンチャーウォーク」
お話にも登場しているシーン、春が訪れて冬眠から目覚めたスノークのおじょうさんがクロッカスの芽を見つけて夜中に寒くないようにガラスをかぶせてあげないとと心配したところ、ムーミントロールは、
「いや、だめだよ。自分の力でなんとかさせよう。
この芽も多少苦しいことにあうほうが、しっかりすると、ぼくは思うよ。」
と答えます。
ひとりで苦しい冬を乗り越えたムーミントロールだからこそ、言える言葉だなぁと、ムーミントロールの冒険を見守ってきた私たちでも、誇らしい気持ちになります。これは、ムーミンのお話の中でも明確に成長と自立を象徴しているシーンだと思います。

最終的には、ムーミンバレーパークでは、
ゲストは、ムーミンバレーパークに訪れる旅人
スタッフは、旅人を迎え入れる住人
という関係性に位置づけましたが、スタッフの接客の姿勢が、
積極的にぐいぐい的な「はい、よろこんで!」というよりは、
物語に出てくるような「押しつけがましくない気配り。
敬意をもって、旅人の自由を尊重する。
(決して、不親切にして気にかけないというわけではない)」
というのがムーミンらしいし、
個人を尊重する社会である北欧をテーマにしたメッツァらしいのでは
ないかと思いますし、結果的に、そういった考え方に共感してくださっている方が、現状は何度も足を運んでくださっている場所になっているのではないかなと思います。

忘れていません、ペットのみんなも大事な「ゲスト」!


ムーミンバレーパークのAtoZ に関しては、こちら(↓)をご覧ください

――――――
株式会社ムーミン物語
川崎 亜利沙
(text by Arisa Kawasaki, Moomin Monogatari ltd.)

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