アートと自然、与えられた才能-HAMヘルシンキアートミュージアムとのエピソード
先日、ムーミンバレーパークに、フィンランドからお客様が来られました。
ムーミンや作者トーベのふるさと、フィンランドのヘルシンキ市が運営する美術館Helsinki Art Museum (HAM)の館長と、ヘルシンキ市のマーケティングチームの人々です。
わたしたちのパークの展示施設Kokemsusで再現されているトーベのフレスコ画、そして階段に再現されているアウロラ子ども病院の壁画は、HAMの所蔵のもので、企画展「ムーミンとトーベ・ヤンソン展」の最後に飾られているトーベが描いた油絵も、HAMからお借りしているものです。
HAMとは、2017年6月からヘルシンキで打ち合わせを始めて、次は2018年2月に訪れたあとも、契約内容の確認や再現方法、展示方法など共有しながら、丁寧に展示の準備を進めてきた経緯があります。
HAMの場所というのは、ヘルシンキ中央駅からほど近いショッピングセンターKammpiからすこし歩いたところにあり、都会のど真ん中のような場所にどーんと位置しています。
HAMのすごいところは、そんな場所にあっても、一歩建物の中に入ると、空気感が変わること。一歩出たら、外は現実、だけど、都会の喧騒を感じさせないような空間。
それが名だたる芸術家たちによる作品のパワーなのかもしれません。
Kokemusの役割は原作のムーミン作品について知ってもらうきっかけを提供すること、そしてトーベが多才な芸術家であったことを紹介することを担っていると位置付けているので、外のにぎやかな空気感(もちろん、これはこれでとても良いんです)とのギャップをKokemusでもトーベの絵の力を借りて作りたいと思っていたので、1階のアプローチは、原作のように飛行おにの帽子で建物が植物でおおわれてしまった外観、そこからつるが伸びて建物の中に続いて、キャラクターたちが隠れている葉っぱを抜けた先には、トーベとムーミンキャラクターたちの像、そして、植物が続いた先には、トーベの芸術性が遺憾なく発揮されている美しい自然が描かれた「田舎のパーティ」がお出迎え、という展示ストーリーを作りました。
このパーティの絵は、2つの作品が対になっていて、「都会のパーティ」というものもHAMにも展示されているのですが、豊かな自然環境にあるムーミンバレーパークに再現するのは、「田舎のパーティ」しかないと思ったんです、ということを改めて伝えたら、その通りだね、と絵をみながら力強くうなずいていました。
こちらはHAMに実際に飾られている二つのパーティのフレスコ画です
アウロラ病院の階段の再現や、企画展の原画の設置の様子もご覧いただいたところ、大喜びで、本当にこの作品をここに持ってきてくれて、ありがとう、という言葉をいただいて、HAMとの三年間のやりとりを感慨深く思いました。
お借りしている、子ども病院のための習作の油絵の前に立って、館長が言っていたのは、トーベがこの絵を描くことになったきっかけは、頼まれたわけではなく彼女自身がコンペで勝ち取ったこと、それからトーベが子ども病院のような公共の仕事をしていたということは特別であるし、壁画のようなダイナミックな仕事から、この習作の油絵を見る通り、本当に細かいテクスチャーで描くことができるような、大きなものから小さいものまで扱えるというのはとても才能である、と、目をきらきらさせながら説明をしてくれました。
Tarentedではなく、 同じ才能でも、Gifted(与えられたもの)という言い方をしたのが印象的でした。
Kokemusの展示は、トーベが多才であった、ということを本当にきちんと伝えてくれている、自分たちが学ぶこともたくさんある、と、そしてパーク全体も、細かいディテールにこだわっていてすばらしい!と、とても喜んでいただけたようです。
これは少し余談になりますが、ムーミン谷のエリアのスナフキンのテントに館長たちと一緒に行ったときのお話を。
スナフキンのテントがある奧の入り江のあたりは、派手な人付き合いを嫌い、孤独を好み、静かなところで作曲をしたいスナフキンの気持ちを汲み取り、わざとさみしい場所にポツンとプロットしています。
スナフキンというキャラクターの性格を知っている人にとっては、「本当にスナフキンがふらっとやってきそうな場所」なのですが、スナフキンをただのイケメンだと思っている人には「なんもないやん。遠くまで歩かされた先にテントしかなかった!スナフキンもいないしがっかり!」と思う人もいるということを聞きました。
わざわざ行ってなにもない、いや、なんにもないのが好きで、余計なものを増やしたくないのがスナフキンなので、ここはBGMも入れていたものをすべてカットしていますし、禁止されるのを嫌うので、看板もサインも置いていません。その代わりに、行ってみたら、本物の鳥の声が聞こえてくるはずです。スナフキンが作曲のヒントにしている鳥のさえずりが。
フィンランド人たちは森や自然の中によく行くので、その感覚がすぐ伝わり、「ここは本当にスナフキンぽい場所だね」と大体みんな言います。今回もそうでした。
それから、平地が多いフィンランドの人にとっては、背が高くて大きい木が生えている、という環境は少し現実離れしているファンタジーの世界のように映るらしく、フィンランドよりもここはムーミン谷みたい、ということも言っていたこともここに記しておきます。
文・写真 川崎 亜利沙