カヌーに乗れば、自然ともっと近づける
ソグベルク/カヌー工房
来る2018年11月、北欧のライフスタイルやムーミンの物語の世界観を体験できるテーマパーク「メッツァ」が埼玉県飯能市にオープンします。短期連載「 #メッツァビレッジの住人 」では、「メッツァ」を構成するエリアの1つ「メッツァビレッジ」に出店するブランドにフォーカスし、地元埼玉や北欧にまつわるエピソードをお届けします。第1回は、飯能市の「名栗カヌー工房」が展開する「ソグベルク」のお話です。
飯能には、素晴らしいカヌーづくり環境がそろっている!
「ギ〜ン、ギ〜ン」と鳴り響くチェーンソーの音を聞きながら、木のぬくもりあふれるカヌー工房の中へ。2018年9月のある日、認定NPO法人「名栗カヌー工房」代表・山田直行さんのお話を聞きに、飯能市の里山・名栗を訪れました。この地に工房を構えて22年、山田さんの元で作られる手作りのウッドカヌーは今や全国に名を馳せるまでに。そしてこの程、「メッツァビレッジ」内に新たな工房がオープンすることになりました。
北海道・旭川出身の山田さんは、高校卒業後に上京し、テレビ局で美術の仕事に関わりながら彫刻家・アーティストとしても活躍。家族とともに徐々に西武線沿いを西へ移動し、名栗にたどり着きます。
「緑と清流に憧れてこの地に来ました、って言いたいんだけど、名栗を選んだのは“たまたま”なんです。ある日チェーンソーを使っていたら、近所のおじさんが来たんですよ。うるさいから怒られるのかなと思ってビクビクしていたんだけど、『音、おかしいぜ!調整してやる』って(笑)。いやぁ、名栗っていいところだなーって思いましたね。それからずーっと、ここにいます」
木材が豊富な名栗で山田さんがやりたかったこと、それがカヌーづくりです。しかも全て木を使い1から手作業で作るというスタイルは、日本では前代未聞だったそう。
「何か人とは違うことをやりたいと思っていきついたのが、アメリカの雑誌で見たウッドのカヌーなんです。名栗に来る前から少しずつ作っていたんだけど、木材を手に入れるのがとにかく大変でね。その点名栗には、江戸の町の建設に貢献した優秀な伝統木材(西川材)が豊富にある。今は杉の間伐材を県から寄付してもらい、一部それらを使ってカヌーを作っています」
自分だけの一艇を作るのに必要な時間は、平均で1年間(週1/約6時間)。魅了された人々がせっせと名栗まで通います。そして完成後は全国の清流でカヌーの旅を楽しんでいるのだそうです。「名栗カヌー工房」の麓にあるダムではウッドカヌーのレンタルが可能。作らない人でも気軽に体験をすることができます。音もなく進む小さな舟は驚くほど軽く、まるで身1つで水に浮かんでいるようでした。
さあメッツァビレッジへ。カヌーに乗って水面で自然と一体化しよう!
今回「メッツァビレッジ」にオープンする工房では、「名栗カヌー工房」と同じくレンタルカヌーを用意しています。
「『メッツァ』はね、景色がいいんです。普段川下りをしていても、案外堤防しか見られなかったりするんだけど、『メッツァ』の中心にある宮沢湖は小さい湖だから見晴らしがいい。ここで多くの人に木のカヌーについて知ってもらいたいし、実際に乗ってもらえたらいいですね。カヌーの魅力はいろいろあるけど、やっぱり自然と近づけることかな。北欧や欧米の人にとってカヌーはすごく気軽な乗り物で、特に北欧・フィンランド(※)の人はみんな自分のを持ちたがるそうですよ」
また、山田さんはこうも加えます。
「カヌーは静かで音がしないから鳥も警戒しないんです。だからギリギリまで近づける。魚もカヌーを流木か何かと勘違いするみたいで逃げないんです。水面で自然と一体化する感覚を体験してもらいたいですね」
カヌーは唯一人の手と原始的な道具だけで作ることができる乗り物
ところで「ソグベルク」とは、スウェーデン語で「木を加工する工場」という意味。「メッツァビレッジ」ではワークショップを通じて北欧文化や木のぬくもりを感じてもらおうと、様々な仕掛けを準備しているそうです。
「北欧のラップランド地方で使われている伝統的な木製マグカップ(ククサ)や、スピーカーづくりなどを企画しています。大人も子供もふらっと訪れて、夢中になってくれたら嬉しいですね」
もちろん、ここでも自分だけのオリジナルカヌー制作が可能。
「木を使って自らの手でカヌーを作るって、普通は考えもしないでしょう。実は、唯一人の手と原始的な道具だけで作ることができる乗り物なんですよ。それも人類最古。6000年以上も前から人間と共に発展してきたというから、すごいね」
なんと偉大なる古の知恵!それに乗り物を自分で作る体験なんて、そうそうできることではありません。けれど、果たして素人でも作れるものなのでしょうか。
「そこはちゃんと教えますから大丈夫です。細い木の板を貼っていくだけだから。コツは“いい加減”になること! 細くても板は板だから、ぴっちり貼ったら丸みは出せず、やっぱり板にしかならないんです。いかにファジーにやるかが大事。だから、真面目な人ほど難しいかもしれないね、ハハハ(笑)」
肩の力を抜いて木と向き合い、木のカヌーに身を委ねれば、きっといつもよりも自然を近くに感じられることでしょう。そんな体験ができるのも、もうまもなくです。
※フィンランド:バルト海の一番奥に位置する北欧の国。国土の70%が森に囲まれ、湖の数は188000もあるため、“森と湖の国”と呼ばれる。
取材・文/河辺さや香
写真 /藤井篤志、末松千夏