【ネタバレなし】フィンランド映画『枯れ葉』(メッツァ北欧シネマ倶楽部 vol.1)
こんにちは。フィンランドの巨匠アキ・カウリスマキ監督の最新作『枯れ葉』の公開を記念して、現在メッツァビレッジ⇆上映劇場間で開催中の「わんわんキャンペーン」を企画した川﨑です。
「日本最大級」を謳う北欧のライフスタイル体験施設で働く一個人として、北欧映画はそれなりに観てきているという自負があるのと、過去には北欧映画のパンフレット寄稿や、劇場での解説なども依頼いただいたこともあるので、熱量高めに、北欧映画について語ってみたいと思いますので、どうぞ生温かくお付き合いください。
カウリスマキ監督作品の魅力について
私の「ファースト・カウリスマキ」は、今からちょうど20年前に恵比寿ガーデンシネマで観た『過去のない男』でした。
絶妙なユーモアに、上映中もクスクスと笑いが起き、ミニシアター特有のその場で鑑賞していた人たちとの一体感があって、観終わった後に、不思議な気持ちになったことを覚えています。そのあと、過去の作品は全部観て、最新作があれば劇場に足を運んできました。
登場人物たちはそろって無表情で、不器用だけど、誠実な愛すべき人たち。それから、家柄やキラキラ優等生人生とは真逆の社会的に不遇な扱いを受けている人たち。そんな綺麗ごとではない現実の世界に光を当てていて、容赦なく不幸が起きても、最後にほんの少し、救いが垣間見える—そんな描き方をするカウリスマキ監督の目線が、優しくも、愛があると思いました。
そして、カウリスマキ監督の作品を観た時に、私がフィンランドを好きになるきっかけになった「冬のフィンランド人」のようだとも思いました。
初めてフィンランドに訪れたのは、いまから22年前の冬。雪深く、寒くて暗く、どんよりとした季節。そして、出会うフィンランド人たちは皆そろって、口数は少ないけれど誠実で、はにかみが素敵な人たちでした。
これは、フィンランド大使館で開催された『枯れ葉』レセプションにて、レーッタ・プロンタカネン報道・文化担当参事官が触れていたことでもあるのですが、カウリスマキ作品について、6年連続幸福度世界1位になったフィンランドの違う側面であると紹介していましたが、まさにその通りだと思います。
平等と言われるフィンランドでも、いわゆるブルーカラーの労働者階級はあるし、失業者やアル中、ドラッグ、近年は移民の問題もフィンランドにはあります。ムーミンやマリメッコを象徴するようなデザインがオシャレでかわいいフィンランドが好きな人は、ギャップを感じるかもしれませんが、それは、日本で憧れていて、旅行などで一時的に訪れるフィンランドのイメージのように感じます。実際に私も3年フィンランドに住んだことがあるので、どちらかといえば、カウリスマキ作品の世界が現実のフィンランドに近いイメージを持っています。
主演のアルマさんとのエピソード
『枯れ葉』の主演のアルマ・ポウスティさんは、実際にお会いすると、小柄でとってもチャーミングな方でした。
よく知られている作品は、映画『TOVE』。アルマさんは、ムーミンの生みの親・トーベ役を演じていたので、オンラインイベントでもご一緒したことがあります。公開当時はコロナ禍で来日も叶わなかったのですが、その時、日本に行くのが夢と話していました。直接お会いした時に、やっと会えましたね!と会話ができました。
愛する人に振り回され、喜怒哀楽の激しい感受性豊かなトーベ役の印象が強かったので、無表情がデフォルトのカウリスマキ作品で、どのような演技をするのだろうと、とても気になっていたのですが、見事にカウリスマキワールドの一員となっていました。それでも、今までのヒロインと比べたら、ところどころのシーンで、ほんの少し感情が見え隠れしていたようにも思います。特に、ラストのウインクのシーンは、とても印象的ですので、お見逃しなく。
そういった演技は、すべてアドリブではなく、台本があり、細かい演出があると先行上映にお邪魔させていただいた際のインタビューで話されていました。それは、出会った中で一番短く、とても美しい台本であったとも。そして、「台詞は覚えてきても、演じるな(don’t act)」と、カウリスマキ監督から言われて、ほとんど一発撮りであったというのも、監督の作品づくりの手法が垣間見えて興味深かったです。
詳しくは、『枯れ葉』公式サイトのインタビューに全文が掲載されていますので、こちらもよろしければご覧ください。
『TOVE』のときは、アルマさんの母国語であり、スウェーデン系フィンランド人であるトーべの母国語スウェーデン語で演じていたのですが、『枯れ葉』では流ちょうにフィンランド語を使っていたのも印象的でした。ご本人にもそれを伝えたら、フィンランド語も日常的に使うことの違和感はないそうです。きっとカウリスマキ監督ともフィンランド語で会話していたのだと思います。
アルマさんは、フィンランド大使館で開催されたレセプションでも、『枯れ葉』アンサとトーベは、ふたりとも、シャイで孤独だけど強いのが共通点だと話していました。
さらにアンサについては、うまくいかなくても誰かに頼らずに生きていく強さを持っていて、人や犬に対して、本質を見抜く目をもっていると。
ちなみに、『TOVE』のほかに、アルマさんがスウェーデン語で演じている作品『1日半(A Day and a Half)』はNetflixでも観ることができます。こちらは、実際にスウェーデンで起きた事件を参考につくられた作品です。
今後の公開作は、女性監督でもあるピルヨ・ホンカサロ監督『Oreda』が控えています。楽しみですね!
『枯れ葉』巡礼は実は日本のメッツァでもできる
劇中のとあるワンシーン。
つい目がいってしまったのは、主演のホラッパ役のユッシ・ヴァタネンと、カラオケ好きな同僚フオタリ役のヤンネ・ヒューティアイネンのバーのシーン。
「メッツァで売ってるビールを飲んでいる!笑」
ビールグラスに描かれていたのは、kukkoのロゴと文字。
にわとりがロゴのこのビールの銘柄は、kukkoというフィンランドの大衆的なビール。ラガーやIPAなど種類も豊富で、メッツァでは同じブランドのものを缶で入手できますので、カウリスマキ映画気分に浸ることができますよ。
映画のワンシーンが見られるパネルコーナーには、劇場に飾られている愛犬のスタンディパネルやオルタナティブポスターも特別に展示されています。
(これは、上映劇場以外では、メッツァだけなのではないでしょうか)
それから、映画とのコラボ『わんわんキャンペーン』で、ワンワン号に乗船いただいた方にもれなくプレゼントしている非売品のポストカード。
色使いがとても素敵なデザインなのですが、どこか既視感があると思ったら、フィンランドの国民的お菓子ブランドFazer(ファッツエル)の「Suffeli」というチョコレートパッケージだ!と思い出しました。
Fazer製品もメッツァで買うことができますよ!
ことし2024年の日本のはじまりに、不安を感じた方も多かったかもしれません。
アルマさんは、「『枯れ葉』を観終わったあとに、世界がちょっとだけ、より安全で、ちょっとだけ、よりあたたかい場所になったように感じていただけたらうれしい。」と話していました。
映画『枯れ葉』が、孤独な誰かにそっと寄り添う、あたたかな作品と感じていただけることを私たちも願っています。
文:川﨑 亜利沙
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