見出し画像

【ネタバレなし】フィンランド映画『ムーミンパパの思い出』(メッツァ北欧シネマ倶楽部 vol.2)

メッツァ北欧シネマ倶楽部
「日本最大級」を謳う北欧のライフスタイル体験施設で働くスタッフ川崎が、一個人として、北欧映画について語るシリーズ。過去には北欧映画のパンフレット寄稿や、劇場での解説なども依頼いただいたこともあり、北欧映画はそれなりに観てきているという自負がありますが、生温かくお付き合いください。

ムーミンの原作小説9作の中で、映画化・アトラクション化すると一番映えるのが今作の『ムーミンパパの思い出』ではないでしょうか。

冒険譚、自由自在に形を変える海のオーケストラ号という乗り物の登場という展開だけでなく、主人公のムーミントロールの父親であるムーミンパパがまだ若いムーミンだった頃、自分は特別なムーミンだと思い込んでみなしごホームを脱走して、スニフやスナフキンの父親となる登場人物たちと出会っていき、最後にムーミンママと運命的な出会いを果たすのは、原作ファンにとっては胸熱です。



実は注目してほしい!主題歌とオープニング映像について

このムーミン・パペットアニメーション映画作品は、1978~1982年につくられたポーランドの短編テレビシリーズをフィンランドのアニメ制作会社Filmkompanietが再編集化したもので、今作で4作目のシリーズとなります。
(1作目から『ムーミン谷の夏まつり』(2008年)、『ムーミン谷の彗星』(2010年)、『ムーミン谷とウィンターワンダーランド』(2017年))

個人的に毎回、パペット長編映画の再編集版で楽しみにしているのが、主題歌とオープニング映像です。
主題歌は毎回、北欧のアーティストが起用されており、過去の『ムーミン谷の彗星』では、世界的アーティスト・アイスランドの歌姫ビョークが歌い話題になりました。

今作は、スウェーデン系フィンランド人アーティストのアンドレア・エクルンドが、前作の『ムーミン谷とウィンターワンダーランド』に続き、主題歌「Waves of the Ocean」の作曲・歌唱を手がけていました。
 
オープニングのアニメーションについては、全くムーミンの登場人物が出てこず、「あれ、もう映画が始まっている?今自分が観ているのって、パペットのムーミン作品だったよね?」と不安になるくらいパペットとタッチが違うのですが(笑)、北生まれの動物トナカイが出てきたりするので、ああ、やっぱり北欧生まれのアニメーションだと気づきます。

アニメーションのタッチと主題歌を歌うアンドレア・エクルンドさんの歌声のご参考までに、前作『ムーミン谷とウィンターワンダーランド』のオープニングをご紹介します。

オープニングアニメーション後からはじまるパペットアニメーションを観ていると、ポーランドでつくられた作品なので、配色や使用されている布の柄などが北欧のものとはまた違うことにも気づきます。平成につくられた日本のムーミンアニメーションを北欧の人が観ると、ムーミン一家のインテリアが日本人が想像したムーミンの世界のものなので、実際の北欧の暮らしで登場するものと少し違っているのが面白いと言われたことがあります。

このパペット作品も、やはり東欧生まれのものなので、北欧の感性とは違った良さが出てきているのが、パペットアニメーションの魅力だと思います。
「ムーミン」は、ファンタジーの世界のものなので、世界各国のそれぞれで「ムーミン」の解釈があってしかるべき、ですよね。

ムーミン谷はフィンランドや北欧にはないものという前提ではありますが、このまま、作者トーベの生まれた「北欧」という観点から今作を読み解いてみたいと思います。


ムーミン谷の世界と、北欧の法律「自然共有権」

劇中シーンでの、はじめて外の世界に飛び出したムーミンパパとはりねずみの会話
ムーミンパパ「ここ、だれのもの?」
はりねずみ「誰のものでもない、みんなもの」
ムーミンパパ「じゃあぼくのものでもあるの?」
はりねずみ「ええ、もちろん」

改めて、「自然共有権」の思想だなと気づきました。
「自然共有権」は、以前noteの記事でも紹介したことがありますが、北欧諸国にある法律で、自然はみんなのもので、自由にベリー類やきのこを摘んだり、川や海で釣りをして魚を捕るなどの自然の恵みを享受してよい、というものです。

北欧の人々は、小さい頃から家族で、または学校教育の中で、森や海・湖などの自然に触れて育ってきているので、それはトーベももれなく同じで、自然はみんなのもの、というのは、当たり前の考えなのだと思います。


ムーミン作品と海

劇中後半で海のシーンがあり、そこでムーミンパパは、「海は奪うが、与えもする」と言います。
これも、自然、それから海の怖さも良く理解している作者トーベならではの視点だと思います。
トーベは、パートナーのトゥーリッキと1964年から30年近く、フィンランド湾沖の島で夏の期間を過ごしました。その間に、自分たちでつくったいろんなものが嵐で流されたり、または、面白いものが流れ着いたりということが起きてそれは本やドキュメンタリー映画として記録されています。また、海の存在はムーミン作品にも影響されたということ、下の動画からもご覧いただけます。


改めて目を向けてみると楽しい、お花や植物について

もう1つ、耳で聞いていて改めて気づいたのは、海のオーケストラ号は「はしばみの茂みの中の空き地」に置いてあったということ。
原作を読み返してみると、はしばみ、という記載がなんども出てきました。ロッドユール(未来のスニフのお父さん)が赤いペンキで船だけでなく、地面やはしばみの葉まで赤く塗ってしまった、とも…

「はしばみ」は、北欧や日本でも北海道などの地域に生息する落葉低木で、「ヘーゼルナッツ」と聞けば、食べられる実のことを思い出す方もいるのではないでしょうか。やはり、作者トーベ自身の住んでいた地域である北の植生の植物が作品にも登場していたのだなと改めて気づいたのでした。

劇中でも色とりどりのかわいいお花や植物がたくさん出てくるので、そういった視点の鑑賞をしてみると、いろんな発見があるかもしれませんよ。

ムーミンバレーパークでも、映画「ムーミンパパの思い出」をさらに楽しめる場所が盛りだくさんです。アトラクション「海のオーケストラ号」や「ニブリングの店」、それからムーミントロールのレントゲン写真がある「ムーミン屋敷」も!
園内にあるフレドリクソンがつくった水車も、ぜひ見つけてみてください。


文:川崎 亜利沙

2023年12月29日から公開中!映画「ムーミンパパの思い出」


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集