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コケムスにお日さまはいくつある?

年が変わってから少し経ちましたが、初日の出はご覧になりましたか?
実は、ムーミンバレーパークの中に、貴重な、「昨年末フィンランドから新しくやってきたばかりの太陽」(1956年のもの!)を見ることができる場所があるんです。

どうやら、初日の出を拝むという風習は世界では珍しいらしく、日本独自のお正月文化ではあるので、北欧の太陽とは関係はないという前提ではありますが、フィンランドのヘルシンキアートミュージアムから、展示施設Kokemus(コケムス)内にあるムーミンの生みの親トーベ・ヤンソンによって描かれた原画の2作目が11月に来日し、取り替えをしています。
…気づいていた方は、いらっしゃいましたか?

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「遊び」と名付けられたトーベによって描かれた3枚のうち、1枚目がオープニング時、2枚目が来日中です。
こちらは、1950年代当時フィンランドにあった「アウロラ子ども病院」に壁画を描くというコンペを見事勝ち取ったトーベが、壁画のために練習した「習作」の貴重な原画です。

さて、ここで思うのは、1枚目の絵は、どんなだったか?ということです。

・ (思い出しながら、下へスクロールしてみてください)

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ムーミンパパとママを先頭に、お姫様や、3つの耳を持つスニフ、そしておもちゃのテディベアたちが走っているものでしたね。


ムーミンバレーパークオープンに合わせてのこの1つ目の原画の来日のことは、HAMにもニュースにしていただいていました。

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そして、現在コケムスの企画展に展示されている2枚目は、ヘムレンさんやトフスラン・ビフスラン、きりんなどの動物、みんなが上の階に駆け上がっていった先に、男の子と女の子の絵があるもの。

1つ目は月、今の2つ目は太陽が入っていて、1つの構図のなかに、太陽と月が両方あったことに、絵が替わったことで、改めて気づきました。

これらを含む全3点をもとに、トーベは実際に階段の壁画を描きました。
つまり、3点つなげると、階段の壁画ができあがる、ということです。

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今回来日した作品は、階段の一番上の部分のところにあたります。
一番上にいる人間の男の子と女の子。それは、小さい頃に子どもだった私たち誰にでも当てはまる姿だと思います。
子どもたちをワクワクさせる、病院であることを意識させない、という病院からのリクエストにトーベは、いつもおなじみのムーミンのキャラクターたちのほかに、原作には登場しない「人間の子どもたち」やお姫さま、おもちゃのテディベア、それから、犬や猫などもムーミンのお話には出てくるものの、通常より多く登場させているのは、人間の子どもたちのペットにいそうな動物たちをトーベは意識して多く入れたのかな、など、想像が膨らみます。
また、物語(ファンタジー)のムーミンたちと、人間の子どもたち、子どもたちにとっての身近な生き物やおもちゃ、童話の登場人物など、さまざまな「生きもの」たちの夢の共演が実現しているのは、病気や痛みなど不安な思いで病院に来た子どもたちの目線に合わせて、特別にこの絵を描いたトーベの思いが伝わってくるようです。

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原画入れ替えに際しては、フィンランドからキュレーターさんが来日して、作品「遊び」の取り替えを行いました。

日本はフィンランドと比べても高温多湿な国。
それに、できたばかりの新しい建物というのは、温度が安定しづらいということで、貴重な原画をお迎えして、管理・維持するというのは、実はプレッシャーでもありましたので、検査のときは少し緊張が走りました。

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ただ、それは杞憂だったようで、状態がとても良いままで管理をしてくれてありがとう、というコメントをいただいて、ほっとしたと同時に、毎日湿度や温度を気にしながらこまめにコンディション調整をしてくれていたコケムスのスタッフたちにも頭の下がる思いでした。

検査のあとは、いよいよ新しく来日した絵画の交換。
キュレーターさんも、梱包用の木箱の開梱をするとき、「中身がわかっていても、この瞬間はいつもどきどきする!」と言っていました。

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前回の1枚目は油絵だったのですが、今回の2枚目はテンペラ画。塗料が変わっています。当時、トーベが習作を描くなかで、本番の壁画に向けても、素材をいろいろ試したかったのではないかとも思えます。
テンペラ画は油絵より繊細な絵画なので、照明も少し落としたりと、コケムスの展示室も、トーベの創意工夫に合わせて、細かい調整をして設置しています。

絵画の出発前に、キュレーターさんと園内を散策しました。

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おさびし山のヘムレンさんの遊園地のきのこの黒板で、なにか書いてみる?といって残してくれたのは、とても味のある絵。
ここに月を描いていたキュレーターさんが、トーベによって月が描かれた1枚目の作品とともに、フィンランドへ帰国した、というのも、偶然なのか、月の導きなのか…。なんて、深読みしすぎでしょうか。


少し余談ですが、この日はフィンランド人が多く来園していた日でもあり、別の用事で来日していたHAMの別スタッフ達ともメッツァ内で偶然遭遇してびっくり!なんてこともありました。

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64年前にトーベ自らによって描かれた作品―コケムスにあるいくつかの太陽の1つ―は、いまも、みんなをやさしく照らしています。

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絵をよく見てみると、トーベの細かい筆遣いやこだわりの色使い、重ね塗りをした後など、試行錯誤した形跡をありありと目にすることができます。
※実際にトーベが描いたこのオリジナル原画を間近で見られるのは、2020年の8月までとなります。

また、絵の全容が知りたい方は、Kokemusの3階から2階の階段まで、お越しください。
オーロラ子ども病院さながらの、階段の壁画が再現されていますよ。


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HAM(ヘルシンキアートミュージアム)とのエピソードや館長の来日の記事は こちら↓ もご覧ください。

文:川崎 亜利沙

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