「ムーミンバレーパークのAto Z」【S】Solitude(孤独)
ムーミンバレーパークのちょっとディープな情報を、AからZまでのキーワードにして、アルファベット順にご紹介していく「ムーミンバレーパークのA to Z」。
【S】はムーミンの原作の物語を象徴するキーワードの1つである「Solitude」(孤独)をフォーカスします。
こちらのキーワードは、展示施設「Kokemus」のムーミン谷のギャラリ―のコーナーでも取り上げていますので、馴染みのある方も多いかもしれません。
ロンリネスとの違い
「孤独」という言葉にどのような印象を受けますか?人によってはひとりでさみしいという意味合いが強いかもしれませんが、そちらは英語でいう「ロンリネス(loneliness)」の方。日本語では同じ「孤独」という言葉でも、英語にはもう1つ「ソリテュード(solitude)」という表現があります。
ロンリネスは、社会から離れてひとりぼっちで悲しくネガティブな孤独。
それに対してソリテュードは、本来の自分らしさを取り戻すために、あえてひとりの時間を選んでつくるポジティブな孤独という違いがあります。
ムーミンバレーパークに来園されたことがある方は、おひとりで来園され、思い思いに自分だけの時間を楽しまれている方が意外といらっしゃることに気づかれたかもしれません。こちらはまさにソリテュードです。
それから、人気キャラクターの一人であるスナフキンもソリテュード力が高いですよね。
彼が、歌のしらべを創作するのにも、ひとりの時間は必要不可欠です。
“ぼうしの下のどこかで、あのしらべが動きはじめました。―最初はあこがれ、つぎの二つの部分は春のものがなしさ。あとは、ひとりきりでいられることの、大きな大きなよろこびなのでした。”(『ムーミン谷の仲間たち』)
孤独とはなんでしょうか。
一人でいても孤独を感じないときもありますし、まわりに人がいたり、誰かと話していても孤独を感じるときもあります。ところが、大勢の中にいることで孤独になる選択をしているというのが、スナフキンです。
“はっと急に、スナフキンは一家のことが恋しくて、たまらなくなりました。あのひとたちだって、うるさいことは、うるさいんです。おしゃべりだってしたがります。どこへ行っても、出くわします。でもいっしょにいても、ひとりっきりになれるんです。”(『ムーミン谷の11月』)
これは、ムーミン一家との距離感が、ひとりでいたいスナフキンにとって心地が良い、ということもありますが、スナフキン自身がひとりで旅を続けてきて、長い間自分と向き合ってきたからこそ、感じられる境地であるということなのでしょうか。
私たち自身に置き換えた時、自立していて憧れるけど、ひとり時間の達人のようなスナフキンの孤独力は、なかなか身に付けられるものではないな…と思われた方もいらっしゃるでしょう。しかしそんなことはありません。ぜひこのまま、読み進めてみてください。
2つの孤独―ムーミントロールとスナフキン―2つの「サウンドウォーク」から
ムーミンバレーパークでは現在、「サウンドウォーク」という、ムーミンの物語を音で楽しみながら園内を巡る体感アトラクションを2種類開催しています。
1つは、自由と孤独を愛するスナフキンの心情を機微に感じ取ることができる「サウンドウォーク~春のしらべ~」。
もう1つは、この冬だけの限定で無料で体験できる「サウンドウォーク~ムーミン谷の冬~」。
こちらは、冬眠からひとりだけ目を覚ましてしまったムーミントロールが、冬の世界でさまざまなものに出会い、成長していくお話です。
このお話の最初の頃のムーミントロールは、本当にさみしがりやで、情緒不安定です。
ひとりが怖くて、ムーミンママを起こそうとしてみたり、何かの生きものの足跡を見つけただけで「待ってよ!僕を置いていかないで!」と泣きさけんでみたりと、まさにロンリネスの状態でした。
これ以降の展開は、サウンドウォークのアトラクションでぜひ体験してください!ロンリネス状態だったムーミントロールが、いろいろな生きものたちと出会い、時には「この人、苦手だな」と感じたり、また、たったひとり自然の中で吹雪などの脅威を体験したりして、最後には「冬だって好きになれるぞ」と、ひとりの時間をソリテュードとして楽しめるようになるのです。
そうしているうちに、気付いたら春を迎えていました。
だからこそ、冬の住人トゥーティッキからムーミントロールに言われた「どんなことでも、自分で見つけださなきゃいけないものよ。そうして自分ひとりで、それを乗りこえるんだわ」(『ムーミン谷の冬』)という言葉を、身を持ってすんなり受け入れられたのでしょう。
ムーミントロールは、それまでのお話では、もともと優柔不断でムーミンママや誰かに頼ることが多い性格でした。一人でいることがさみしいと感じ、孤独を恐れています。そういうタイプの性格は、悪者になりたくなく、自分の気持ちを抑えて「いい人」でいようとします。だから、リトルミイにも「あんたったら、ほんとに自分自身をだますのがじょうずね!」(『ムーミンパパ海へいく』)と言われてしまうこともあります。
優しいのは悪いことではありませんが、周りの意見に流されやすく、ひとりになったときに自分で判断をすることができなくなってしまうこともあるかもしれません。
そんなムーミントロールのような性格でも、冬の冒険を通して、ひとりの時間をロンリネスからソリテュードに変えることができたことを思うと、ひとりが苦手という方にとっては、たくさんヒントがつまったお話ではないでしょうか。
孤独でいることはさみしいことではなく、自分自身と向き合える大切な時間
冒頭にご紹介した、展示施設コケムスの「ムーミン谷のギャラリ―」では、個性豊かなムーミン谷の住人たちのさまざまな孤独との向き合い方を展示しています。
ひとりを楽しむスナフキン、ひとりぼっちのモラン、古くて大きな家にひとりで暮らすフィリフィヨンカ、子どもや孫たちに年より扱いされることがいやでひとりぼっちになったスクルッタおじさん、それから、ひとりではない状態なのに孤独――灯台に引っ越して一緒に暮らしているはずなのにばらばらになっていくムーミン一家、ひとりではなく群れているはずなのに感情がなくあてもなく彷徨うニョロニョロたち…さまざまな「ひとりぼっち」の形から、みなさんもぜひ、ご自身の「孤独」と向き合う手がかりを見つけてみてはいかがでしょうか。
ムーミンバレーパークのAtoZ に関しては、こちら(↓)をご覧ください
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株式会社ムーミン物語
川崎 亜利沙
(text by Arisa Kawasaki, Moomin Monogatari ltd.)
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